スポーツ現場におけるエマジェンシー・アクション・プラン(EAP)の作成方法をまとめました【誰でも簡単にEAPを作成できる5つのステップで解説】

安全管理体制の構築
先生
先生

スポーツ現場にEAPが必要なのは分かったんだけど、どう具体的に作成すればいいのか分からない…

指導者
指導者

活動しているのは少年団のチームなので、ドクターや看護師、アスレティックトレーナーなどの専門スタッフがいないからEAPは作れなさそう…

先生
先生

EAPにエリア別マップがあれば分かりやすくなるけど、コンピューターの作業が苦手なので作れない…

スポーツ現場での安全管理体制を構築するためのセミナーや講義をするときには、参加者の方々から上記のような悩みをお聞きします。

日本のスポーツ現場でEAP の作成を推奨されるようになったのは最近になってからです。

正直、日本のスポーツ現場ではまだ、EAPが認知され、普及しているとは言えない状況です。

アメリカのスポーツ現場では、EAPの作成が義務付けられていて、ドクターやアスレティックトレーナーなどの専門スタッフがいなくても、高校などの現場にいる指導者の方々が作成しています。

日本のスポーツ現場でEAPが当たり前にある状況にするために、ドクターやアスレティックトレーナーなどの専門スタッフがいても、いなくてもEAPが作成され、スポーツ事故が発生してしまった時に、迅速に対応し、医療機関へ搬送できるようにしなければなりません。

今回の記事では、ドクターやアスレティックトレーナーなどの専門スタッフではなく、少年団のスポーツチームのような子供たちを指導されている指導者の方々が、スポーツ現場のEAPを簡単に作成できるように5つのステップで作成方法を説明させていただきます。

スポーツ現場のEAPの作成ステップ 0: EAPに関する基礎知識

スポーツ現場のEAPを作成する5つのステップを解説する前に、EAPに関する基礎知識について振り返りたいと思います。

スポーツ現場でEAPを作成する目的は、スポーツ現場で緊急時が起こった際に、対応できる体制作りをすることで、緊急時の迅速な対応と医療機関への迅速な搬送を行うことです。

EAPを作成するにあたって、どのような緊急事態が起こるかを想定することが特に重要です。

スポーツをする運動施設の管理者や指導者には安全配慮義務があり、リスクを回避する責任と救護する責任があります。

このEAPの作成は、緊急時が起こった際に救護する責任を果たすために必要な準備だとも言えます。

競技特有のリスクを把握し、いかなる緊急事態も想定し、準備することも大切ですが、まずスポーツ現場で想定しなければならないのは、日本に関わらず、スポーツにおける死亡事故の原因で多い、心臓疾患による突然死、頭や首のケガ、そして熱中症です。

NPO法人スポーツセーフティージャパンでは、このスポーツにおける死亡事故の三大原因である心臓(HEART)、頭や首(HEAD)、そして熱中症(HEAT)の頭文字の3つのHからトリプルHと呼んでいます。

まず、このトリプルHに対して迅速な対応と医療機関への迅速な搬送ができる体制を作るためにEAPを作成しましょうと取り組んでいます。

もちろん、骨折や脱臼、落雷事故、そしてプールなどでの水の事故なども忘れてはいけません。

EAPを作成するには、忘れてはいけないポイントがあります。

  • 簡潔で見やすい
  • 施設/ 場所ごとに作成
  • イベントごとに作成
  • チームごとに作成
  • 実際に迅速に対応できるためにシミュレーション訓練
  • 定期的に検証し、更新
  • 関係者と共有できるように、配布もしくは掲示
  • 消防署や医療機関などの関係者に協力要請

スポーツ現場での緊急時に迅速に対応し、医療機関へ迅速に搬送するための体制作りは、指導者だけで達成できるものではありません。

スポーツ現場にいる人と周辺の医療機関などの関係者の協力・連携が必要です。

緊急時に関係者が協力できるように、EAPといういつ起こるかわからない事故やケガに対して、発生後いかに迅速に対応し医療機関へ搬送できるかを事前に想定した計画書を作成することがとても重要になります。

それでは、スポーツ現場の緊急時に関係者がしっかりと連携し迅速に対応し、医療機関へ搬送するためのEAPの作成方法について5つのステップを1つずつ説明させていただきます。

スポーツ現場のEAPの作成ステップ 1: EAPに記載する情報を収集・記入

EAPを作成する1つ目のステップは、EAPに記載する情報を収集し、記入することです。

注意していただきたいのは、情報を集めて、ただEAPに記入するだけでは、関係者が協力して緊急時の対応ができる体制ではありません。

施設の安全責任者や施設管理者、そして周辺の医療機関などには、EAPが完成した後には、情報を共有することが必要になります。

EAPに情報を記載するということは、EAPに載っている情報を共有し、連携しているという前提を忘れてはいけません。

EAPに記載する必要のある必須の内容には以下が含まれます。

  • 施設/ エリア別マップと各ルート
  • 救急救命用具設置場所
  • 基本情報(大会名や施設名、住所など)
  • 緊急連絡先(緊急時対応人員と緊急連絡先、タクシーや病院など)
  • 役割分担

EAPは、緊急時に見て迅速に対応できるように必要な情報がまとまってなくてはいけません。

誰がどこにいて、どこに連絡すればいいのか、必要なものはどこにあるのか、誰がどのような役割を果たさなければならないのか、など緊急時対応に必要な情報が記載されていなければならないため、1つ目のステップは、この必要な情報を収集することになります。

スポーツ現場のEAPの作成ステップ 2: 施設(エリア)別マップの作成

EAPに記載する情報を収集し、基本情報や連絡先など文字で記載する情報を記入した後は、施設(エリア)別マップの作成です。

この施設(エリア)別マップの作成には、様々な方法がありますが、一般的な方法としては、Google Mapで会場周辺の地図をスクリーンショットして挿入する方法です。

この方法では、サッカーやラグビーなどの屋外のスポーツでグラウンドではあまり問題なく、分かりやすい地図を作成できますが、スタジアムや屋内スポーツの場合には、周辺との関係は分かりますが、フィールドやコート内が分からないという問題があります。

NPO法人スポーツセーフティージャパンでは、簡単にEAPを作成できるソフト(EAP Draw)を開発し、会員の方には無料でご利用できるようにしています。

EAP Drawでは、各スポーツのフィールドやコートがすでに用意されているため、選択して、絵を描くようにカーソルを動かして作成することができます。

スポーツ現場のEAPの作成ステップ 3: 施設(エリア)別マップに必要事項を記入

施設(エリア)別マップを作成した後には、AEDや救急セットなどの救急救命用具の設置場所などの必要事項を記入していきます。

この施設(エリア)別マップに記入する必要事項には、

  • 各ルート(救急車や救急隊員の経路、落雷避難経路など)
  • 緊急時対応人員の待機場所(事務所、控え室、医務室・処置室など)
  • 用具設置場所(AED、スパインボード、車椅子、救急キット、製氷機、など)
  • 階段や段差、門やドアなど搬送の障壁になるもの(鍵の場所や担当者)

何度も強調させていただきますが、EAPは一目で分かる見えやすさがとても重要です。

必要な項目が記載されていたとしても分かりにくければ、迅速に対応することはできません。

設置場所やルートなどはイラストや矢印をマップ上では記入し、説明などが必要な際には、マップ上ではなく、別の項目を作り、短い文章でも説明するようにしましょう。

スポーツ現場によって、準備されている救急救命用具や人員によって緊急時に対する対応が変わってきます。

例えば、スポーツ中の熱射病の場合には、迅速に深部体温を下げる必要があり、この深部体温を下げるにはいくつかの方法があります。

みなさんが活動するスポーツ現場で利用可能な方法を選択し、その方法に必要なモノがどこにあるかをマップ上に反映するようにしてください。

また、グラウンドやフィールド場で選手や審判、コーチングスタッフが倒れた緊急時だけではなく、大会の運営スタッフや観客の方が倒れてしまった時の緊急時も作成することが必要です。

落雷などでは、落雷事故を予防するために危険と判断した場合には、グラウンドやフィールド上にいる選手や審判、コーチングスタッフだけではなく、観客などを含めて関係者全員が迅速に避難できるようにアナウンスすることも必要になります。

どのようにアナウンスして、観客の方々を安全な場所に誘導するかもしっかりと想定しておくことが必要です。

このような落雷事故予防や天災、テロなどに特化した対応に関しては、別に作成する必要もあります。

スポーツ現場のEAPの作成ステップ 4: 役割分担を記入

最後に、EAPに記入するのが役割分担になります。

スポーツ現場での緊急時の役割分担は4つあります。

  • 処置(心肺蘇生、AED、応急手当など)
  • 連絡(救急車、救助)
  • 調達(AED、スパインボード、救急セットなど、処置の補助・記録)
  • 誘導(救急車、観客、選手など)

緊急時の役割分担には上記の4つがありますが、誰が緊急時になっているかで役割分担が変わる可能性があります。

スポーツをしている選手が倒れた場合には、指導者であるあなたや審判が中心に対応することになりますが、観客が倒れてしまった場合には、大会運営や施設管理者が中心に対応することになるかもしれません。

これは、あなたが活動されているスポーツ現場、または、試合であったとしても公式戦なのか練習試合なのか、合宿などの遠征先での練習試合なのかによっても誰がそこにいるかによって変わってきます。

また、忘れてはならないのは、指導者であるあなたが倒れてしまうという可能性もしっかりと想定することが大切です。

「俺は大丈夫だ。もし倒れたら死ぬだけだ!」と冗談でおっしゃる指導者の方もいらっしゃいますが、あなたが指導されている子供たちへの影響も考えれば、あなただけの問題ではありません。

あなたが活動されているスポーツ現場で、「こんな緊急事態が起こったら対応に困ってしまうなぁ~」ということを想定して、準備するようにしてください。

スポーツ現場のEAPの作成ステップ 5: シミュレーション訓練でEAPを検証&反映

EAPがひとまず完成したら、実際に緊急事態が起こったと想定して、迅速に対応し、医療機関へ搬送できるかを検証する必要があります。

ステップ5では、緊急事態が起こったと想定した訓練(シミュレーション訓練)を実施して、問題なく計画通りに対応できるかを検証し、問題点があった場合には、問題点を解決して、その内容をEAPに反映させましょう。

このシミュレーション訓練では、トリプルHや手足の骨折や脱臼などの疑いなど複数の緊急事態を想定するようにしてください。

可能であれば、このシミュレーション訓練は、実際のスポーツ現場・会場を利用して、当日いる関係者全員が参加するようにしてください。

搬送経路にしようと考えていたルートは問題なく、救急隊のストレッチャーや車椅子が通るかなどもしっかりと検証する必要があります。

また、救急車がどれくらいの時間で会場まで到着できるか、会場から病院までどれくらいの時間がかかるかなども再度、確認するようにしてください。

シミュレーション訓練では、実際に時間を測定して、対応にどれくらいの時間がかかっているかという対応時間を把握することも大切です。

特に、AEDが必要な心臓疾患に関わる緊急事態の場合には、

  • 倒れてからAEDが現場に到着する時間
  • AEDが現場に到着してから電気ショックのボタンを押すまでの時間

の対応時間はしっかりと検証することが大切です。

AEDに関わる目安時間として、

  • 倒れた場所からAEDが設置している場所までの時間=1分以内
  • 倒れてからAEDの電気ショックのボタンを押すまでの時間=3分以内

があります。

このようにシミュレーション訓練では、対応時間も含めて検証しながら問題がないか確認しながら、スポーツ現場に関わる人の連携を高めて、対応できるようにすることが大切です。

スポーツ現場のEAPを作成するための5つのステップのまとめ

スポーツ現場で緊急時が起こった際に、対応できる体制作りをすることで、緊急時の迅速な対応と医療機関への迅速な搬送を行うためにEAPを作成する必要があります。

スポーツ現場での緊急時に迅速に対応出来る体制をEAPを作成することによって指導者としての責任を果たすこともできます。

スポーツ現場に必要なEAPを作成するための5つのステップとは、

  1. ステップ 0: EAPに関する基礎知識
  2. ステップ 1: EAPに記載する情報を収集・記入
  3. ステップ 2: 施設(エリア)別マップの作成
  4. ステップ 3: 施設(エリア)別マップに必要事項を記入
  5. ステップ 4: 役割分担を記入
  6. ステップ 5: シミュレーション訓練でEAPを検証&反映

になります。

スポーツ現場でEAPを作成し、緊急時に迅速な対応と医療機関への迅速な搬送ができる体制を事前に整えることの重要性を理解した上で、EAPを作成することが大切です。

EAPを作成した後には、しっかりとシミュレーション訓練で教育と検証を行い、問題点がないかを確認し、必要であれば修正してください。

また、関係者としっかりとEAPを共有することによって、誰もが緊急時に落ち着いてどのように行動すればいいのかを共通認識を持つようにしてください。

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